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クソビッチ社長

 

「貴様はもう飽きた」

豪奢なベットの上に座り、こちらをちらりとも見ずに爪を磨いているそいつの言葉は、簡潔ながらも十分な衝撃を彼に与えた。

「あ、飽きた…?」

引き攣った声でそうあいつに問いかける彼は、ぶるぶると箱を持つ手を震わせていた。
彼が手に持っているのは腕時計か指輪か、はたまた香水か、どれにしても高そうなものが入っていそうな、高級そうな白色の箱だった。

「そうだ、分かったならさっさと出ていけ。ああ、その箱は中身ごと置いていけよ」

ピカピカに磨かれた爪に透明のマニキュアを塗りながら、あいつはなんの感情もなくそう言い切った。
ヒクヒクと口角を動かし狼狽していた彼は、大股でベットの上の奴に近づき、箱を床に投げ捨て詰め寄った。

「何を言っている!俺は君を愛しているからこうやって訪れているんだろう!それなのに、君は飽きたというのか!」

肩をがしりと掴みながら必死に問いかける彼を押しのけ、海馬はハァとひとつ不機嫌そうに息をついた。

「俺はただ貴様の愚息に少しばかり興味があったからわざわざ招き入れていたのだ。だのに貴様とくれば紳士を気取り、物を渡しては自己陶酔してばかり。俺は駄犬を無闇に甘やかす程馬鹿ではない」

つまるところ、Sex以外には男に何の興味も無かったということらしい。その事実を知った彼は顔を真っ赤にし怒りを顕にした。

「ふざけるな!私は君のことを愛しているから慎重に…!」
「四人だ」

唾を飛ばしながら激昂する彼を冷静に交わしていた海馬が、そう口にすればピタリと男の言葉が止まった。

「な、なんの話だ…?」
「俺に今まで、愛しているから抱かないと言った馬鹿な男の数だ。貴様を入れれば5人目だな」
「…は?」
「まぁそんな奴はすぐ捨てるがな。俺を抱きたいという男は大勢いる」

怒りすら忘れて顔をサーッと青くした彼から離れベットから立ち上がり、これみよがしに海馬が細くしなやかな指を項垂れた男の目の前に差し出す。

「この指は、昨晩二人のペニスを扱った指だ」

そう言いながらニヤリと笑い、チュッと自分の指にキスをする海馬は、酷く卑猥で美しく目を離せない。

「この脚を見ろ。昨日の昼に来た男は、この脚で三度も達したのだ」

海馬はクスクスと笑いながら、長く形のいい脚をゆっくりと指で撫であげた。
それを何も言わずに見ていた男の目に、うっすらと欲の炎が燃え上がり始めたのが見えた。

「そして、」

ベットの上に黙って座り込んでいた男に顔を近づけ、海馬は己の唇を美しい指でなぞりながら片脚を男のいきり立った股に乗せ、ぐりっと爪先で踏み込んだ。

「この口は、今まで何人もの男のペニスを銜え舐めしゃぶった口だ」

そう言いながらぺろりと舌なめずりをする海馬は、まるで男を貪るサキュバスのように見えた。

「っ!!」

今まで己の本能を隠していた男の理性が、ついに切れたらしい。目の前にある極上の餌に飛びかかり喰らおうとするその姿は、まさに盛りのついた犬そのものだった。

「やはり貴様は駄犬だな」

ドン、と鈍い衝撃音が聞こえたと思えば、海馬の後ろには見慣れた黒スーツの男と、ベットの下の床には白い箱と共に憐れにも突き落とされた獣が転がっていた。

「なっ、え」

床に鼻を打ちつけたらしい男が血を垂らしながら海馬の方を見やれば、そこには冷たく光る青い目がこちらを見下していた。

「サヨナラだ。永遠にな」

背後の黒スーツの男に何かを指示したらしい海馬は、そう言うなり床に転がる男から目を離しその場を後にした。

「ま、待って」
「申し訳ありませんが、貴方にはご退室願います」

海馬を引き留めようと手を伸ばすも、その手を掴んだのは美しい彼の手ではなく、威圧感を放つ黒スーツ男の無骨な手だった。
そのままズルズルと体を引きずられながらも、彼は海馬の名を叫ぶ。だが、海馬は男に一見もせずにソファに座っていた。
男がドアまで引きずられ、最後に怒りを込めて海馬の後ろ姿に絶叫した。

「この悪魔が!クソビッチ野郎!」

そう捨て台詞を残しながら、彼は部屋の外へと消えていった。

「あいつ、殺しでもするのか」

二人が喋ってる間にもずっと黙っていた俺が漸く口を開く。あの男には見えない場所にいたからか、俺には何も飛び火が無くて良かったな、と心の中で思う。

「さあな。それは俺ではなく磯野が決める」

二度と日の目は見れんだろうがな、と言いながら紅茶を啜る海馬に、コイツはやはり強かだなと思い知る。

「で?俺は何番目なんだ?」

少し意地悪く聞けば、海馬はニヤリとしてこちらに顔を向けた。

「二番目だ。
……モクバの次、としてな」

二人でくすりと笑い合いながら、ゆっくりと唇を合わせてそのままソファへと海馬を押し倒した。
甘く蕩けるようなこの口付けは、あの男にも俺にも美しく囁く毒を持っているのだ。
快楽を与えるその毒を、俺は夢中になって貪った。

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