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SミホちゃんとMキャベツ

 

放課後を知らせるチャイムが響く校内は、にわかに慌ただしい雰囲気に包まれていた。
これから部活動に勤しむ生徒もいれば、友人と寄り道をする約束をしている生徒もいて、ざわざわといろんな声が飛び交っている。
そんな喧騒から少し離れた、今は使われていない机や教材の置かれた教室の中に、二人の人影があった。
夕焼けの色に照らされながら、お互いの瞳を見つめ合う男女。ここまでならば、彼らはただの恋人同士のように見える。
だがしかし、一つだけ、二人にはおかしなところがあった。
すみれ色の髪をリボンで束ねふわふわと揺らし、満面の笑みを浮かべている愛らしい顔立ちの彼女の足元に、若草色の頭をした彼は跪き、にこやかに笑う彼女の足の甲に恭しく口付けを落としていた。
少々間の抜けた、このおとぎ話の真似事は、二人とっては重要な挨拶だった。
いつからだったか。人を陥れては嘲笑っていた化物が、魔性の笑顔をもった美しい少女に心を奪われ、自ら外せぬ首輪をつけ始めたのは。そんな魔物に、少女が深い愛を悟ったのは。

「海馬くん。ミホね、海馬くんのこと大好き」

 

そう言って、彼女は身をかがめ、海馬と呼ばれた少年の額に口付けた。

 

「私に好きって言ってくれる、海馬くんが大好きよ」
「野坂さん。僕は君が好きだよ。君のためになら、僕は」
「ダメ。ちゃんといつもみたいに、ね?」

 

優しい手付きで白い頬をなぞり、野坂ミホは自分の名が書かれた上履きの先を彼の口に近づけた。

 

「ねえ、海馬くん」
 

 

口の中に感じるのは、砂利の硬さと、使い込まれたゴムの味。

 

「んぐ……、はぁ」

 

犬のように四足で這いつくばり、垂れる涎で顎をベチャベチャと汚しながら、愛しい人のソレを銜えている自分に、嫌悪感と快感が同時に沸き上がってくる。こんなにも惨めで、浅ましくて、汚らしい自分を見詰める彼女の瞳で、より一層ゾクゾクと背筋に興奮が伝わった。

 

「の、らか…さん。野坂、さん」

 

僕が名前を呼ぶ度に、野坂ミホはくすりと笑ってくれる。いい子だねと、頭を撫でてくれたりもする。
この瞬間に、僕はたまに粗相をしてしまう。今も、いつ射精してしまうか分からないくらいに勃起してしまった。その度に、僕はたまらなく恥ずかしくなって、最高に気持ちよくなれる。
恥ずかしいのが気持ちいいだなんて、彼女に出会うまでは知らなかった。野坂さんが僕を、犬にしてくれるまでは。

 

「考え事?海馬くん。お口がお留守になってるよぉ」

 

ぐっと、つま先が僕の喉奥までに入ってくる。息苦しい、けど、彼女は悶える僕を見て、楽しそうに笑っているから、我慢しなくちゃ。

 

「綺麗にしてくれたら、ちゃあんとご褒美を用意してるから、頑張ってね?」

 

こくこくと首を縦に振って、舌を這わせることに集中する。
もっともっと、野坂さんが、喜んでくれるように。

 

「うふふ、海馬くんったら、またえっちなこと考えてる……ミホよりも、変態さんだね」

 

笑う彼女の赤い唇が酷く艶やかで、僕はゾクリと背筋を震わせた。

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