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リクでキャベツと頂いた時に書いたもの

 

ふと意識が戻れば、カリカリと聞こえるシャープペンシルの音と、最近うちの学校に来たという新米教師が英文を音読する声が、教室内に響きわたっていた。
聞こうが聞きまいが、どうせいい点は取れないだろう、とタカをくくって昼寝していた俺には、ただの雑音にしか聞こえない。

(まだ終わらねぇのかよ。つまんねぇな)

まだ授業が始まって30分程度しか経っていないのに、すでに俺の頭はもう一度眠る体制に入っていた。
くあ、とひとつ大きなアクビをしながら、なんとなしに教室内をぐるりと見回す。
俺の席から前に二つ離れたところに、確か遊戯が座っていたはずだ。ちらっと見えるあの特徴的な頭は、確実に遊戯のものだろう。
その遊戯の隣に座るのが、杏子だ。相変わらず真面目にコツコツと勉強しているみたいだ。俺には真似できない。
その杏子の、右斜め後ろに座っているアイツの後ろ姿を視界に入れた途端、俺は口の中でうげ、と呟いた。
昼休みから眠っていたから気づかなかったのか、午前までにはいなかったハズのアイツが、いかにも優等生と言った感じに、背筋をピンと伸ばして座っていた。

(シャチョー出勤ってやつかよ、偉そうに)

青の学生服とピンクのブレザーが並ぶこの教室で、一人だけ真っ白な色をしているアイツは、俺の天敵だ。
金持ちで、先生にも気に入られてて、頭が良くて人気があって、誰もが羨む優等生。まさに俺とは正反対な野郎だ。
別に、アイツを妬んでるとか、羨ましいと思ってる訳じゃない。ただ、アイツの笑顔が、なんとなく気に入らなくて、見てるとむしゃくしゃするんだ。裏の読めない、人形のように笑うアイツが、俺は苦手なんだ。
ぼんやりとしてアイツを見ていれば、俺の視線に気づいたのか、アイツの金色の目が俺の方へと向いた。
眉を隠す長さの前髪が影をおとすその目には、光がなかった。

(嫌な、目だ)

俺が嫌いな、あの目だ。蛇が蛙を睨むような、ネットリとして、薄気味悪くて、恐ろしいアイツの瞳。
俺が思わずその不気味さにツバを呑み込めば、心の読めない金色が、鈍く輝いた。

俺には、その輝きの意味が分かった。あの色は、あのギラつく目は、捕食するものが、獲物を見つけたときのものだ。

(や、ばい)

アイツに、喰われる。

「先生」

俺を見つめていたアイツが急に立ち上がったことで、クラスから一切の雑音が消え、視線がソコに集まる。

「ど、どうしたんだ?海馬」

突然「あの」優等生に話しかけられてビビっている先公をよそに、アイツは、海馬は周りと俺の怪訝な視線を気に止めずに喋り出す。

「城之内君が気分が悪そうなので、保健室に連れて行ってきます」
「っえ?」

急に名前を呼ばれたと思えば、グイッと腕を掴まれて無理矢理立たされた。

(何がなんだってんだよ!)

訳が分らないこの状況に混乱してる俺と他の奴らを無視して、海馬はズカズカと歩き教室から出ようとする。
一連の流れを呆然としながら見ていた教師が、ハッと正気を取り戻しながら慌てて海馬を呼ぶ。

「ま、待て海馬っ」
「何か、問題がありましたか?」

呼び止めた先公に振り向いた海馬は、隣でちらりと見ていた俺が思わずドキッとする程の、威圧感と不気味さのある笑顔を浮かべていた。

「えっ、あっその」
「城之内君が辛そうなので、急ぎますね」
「っ、おい!」

その笑顔に教師が怯んだ隙に、海馬は周りのにわかにざわついた空気を気にも止めずに教室から俺を連れ出した。

ガラリと閉まった教室の扉を見ながら、俺の肩を持つ海馬を引き離そうとすれば、意外なことに喧嘩慣れしている俺よりも強い力でそれを制してきた。
力でダメなら口でと、精一杯海馬に離せと叫べば、煩いよ。と静かに返されるだけに終わる。
どうにも出来ずにひと悶着していれば、いつの間にか保健室の前にまで来てしまっていて、俺は思わず溜め息をつく。
確か、今日は一日保健室には誰もいなかったハズだ。昨日の一限目のときにサボリに来たら、保健室の少々香水のキツイ女の教師に、明日は一日出張なのだと言われたのだ。きっと、この白と緑の強情な優等生もそれを知っているんだろう。

(ああもう!めんどくせぇな!)

これからのことに頭を抱えていれば、閉まっているハズの目の前の扉が簡単に開いてしまった。
まさか、海馬が開けたのだろうか。いや、コイツなら先公に取り入って鍵を借りることなんて容易いだろうな、と現実逃避し始めた頭で考えた。
…とりあえず、遊戯が心配しないように、出来るだけ血は流さないでおこう。



……どうすればいいんだ。俺は、この空間で。

「ねぇ?悪くはない話だろう?」

にこりと胡散臭い笑みを浮かべながら、ゆっくりと俺の頬を撫でる目の前の男に、俺はただ唖然とするしかなかった。

「君はただ、僕に大人しく従って腰を振ればいいんだ。簡単だろう?」

保健室に入った途端、椅子に座らされたと思えば、何故だか海馬はその膝の上に乗ってくるし、その海馬からつまるところ、「セフレ」になれと言われるし、

(いやいや、意味分かんねぇよ!)

冷や汗が出る思いで頭上で輝く金色の瞳を覗き込めば、海馬は有無を言わさぬ笑顔で「ね?」と呟いた。
先程まで教室内で振りまいていた笑顔とは違う、どこか欲を含んだその表情に、不覚にもドキリと心拍数が上がってしまった。

(おいおいマジかよ俺…!)

俺がバクバクと高鳴る胸を落ち着かせるのに必死になっていれば、それを分かってやっているのか、海馬がニヤリと笑って自分の学ランのボタンをゆっくりと外し始めた。

「お、おい!」
「いいから、黙って見てろ」

ぷつん、と海馬が色の白い指で金色のボタンを外す姿は、安物のAVに出てくるストリップショーなんかよりも、ずっと卑猥で色っぽく見えて、つい生唾が口の中に溢れてきてしまった。

(なんだって、コイツにこんな欲情しちまってんだよ)

俺の太腿の辺りに座っている海馬には、きっと俺の愚息が反応し始めているのが分かっているんだろう。俺がゴクリとツバを呑み込む度に、フフ、と小さく笑う声が聞こえる。
俺の反応を見た海馬が、またひとつ、ボタンをはずしていく。

ぷつん。
「お前は、随分と正直なのだな」
ぷつん。
「いつも、俺を見る度に、嫌そうな顔をする」
ぷつん。…ゴクリ。
「だが、いつもお前の瞳の中には、軽蔑や嫉妬の色がなかった」
ぷつん。
「俺の本性を暴きたいと、いつもギラりと輝いていた」
…ぷつん。
「貴様は、俺の何が見たいのだ?」
ぷつん、……ゴク。
「…ほら、貴様の見たがっていたものだ」

もう、海馬が四つ目のボタンを外した時点で、俺の中には理性がなかったかもしれない。
気が付けば俺は、目の前に曝け出されたうっすらと肋の浮きあがった白い体に、ジュウっと吸い付いていた。

「ああ、そうだ…。フフ、俺もお前も、淫らで汚い、な…」

規則正しく動く心臓がある辺りに、赤黒い印がついたのを見て、海馬がクスリと笑った。
その笑顔は、今まで見てきた笑顔の中で、一番綺麗で、艶やかな笑顔だった。

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