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キュッと足音を鳴らしなから弾みをつけて高く飛び、手にしたボールを勢いよくゴールに投げ入れる。吸い込まれるように網に入っていくボールを視界の端で見て、うまくいったなと思いニヤリと笑う。ホイッスルの音が館内に鳴り響き、点数の貼ってあるボードをみれば、俺達のチームが圧勝していた。

「やったな!城之内!」

後ろから肩を抱いてくる本田に「当たり前だっつーの!」と言いながら背中を叩いてやれば、思ったより痛かったらしくうげっと言いながら背中を摩っていた。

「あ…わりぃ」
「城之内ぃ〜?」

涙目で睨んできた本田から野生のカンを使って逃げ出せば、周りから大きな笑い声が上がった。

「二人とも、相変わらずだねぇ」

クスクスと笑いながらこちらに近寄ってくる遊戯に、おう!と返事をしながらガッツポーズをする。

「俺と本田のコンビネーションさえあれば、うちのチームは絶対に負けねぇぜ!」
「そーだそーだ!言ってやれー城之内ー!」

わいわいと騒ぎながら次の試合が始まるまで休憩していると、ふと視界に青いジャージを着込んだ珍しい人物が映った。その姿を捉えた瞬間にあ、と声を出してしまう。それくらいには、本当に珍しい人物が、そこにいた。
ついさっきまではいなかったハズのそいつは、俺よりも背の高い本田をさらに越すほどの身長がある体を折りたたみ所謂体操座りをしながらこちらを見ていて、その姿に思わずふっと笑ってしまう。

「あれ、海馬くんだ!」

俺が急に吹き出したのに気づいた遊戯が、俺の目線の先を見れば、その理由を理解し表情を明るくさせた。
嬉しそうに海馬に駆け寄る遊戯を見ながら、本田や周りの男子たちもそちらを見やった。
一応、高校生という肩書きを持った海馬がこうやって授業に参加するのはとても珍しくて、しかも今の時間は男子はバスケの授業中なのもあって、周りの奴らがざわざわと慌て始める。
隣に立っていた本田も、驚いた顔をしながらこっそりと耳打ちしてきた。

(まさか、あの海馬がバスケしに来たのか?)

本田の最もな疑問に、俺もまさかな、と苦笑いをする。あいつが、まさか…。…全く想像できない。
こそこそと耳打ちしてる俺らをよそに、座っていた海馬に近づいた遊戯が明るく話しかける。

「海馬くん、久しぶりだね!モクバくんたちは元気?」

「ああ…仕事が一段落付いたからな、顔を出しに来た。モクバも今は普通に学校へ行っている」

遊戯にはなぜか優しい海馬は、淡々と返事をしている。ニコニコと笑い相槌を打ちながら遊戯が横に座っても、何も文句は言わない。以前、このことを獏良に言ったら、「海馬くんは弟属性に弱いんだよ」と言ってふわりと笑っていた。

(つまり、年下趣味なんだろ)

心の中で毒づきながら、体操座りをしている二人を見れば、なにやら雑談をしているようだった。

「遊戯も優しいよなー。色んな目に合わされたのに、いっつも海馬には笑顔で話しかけてる」

もう昔の話だけどよ、と言いながら本田は遊戯と海馬の方へと歩いていった。

(分かってるっつの、そんなことくらいよ)

昔、海馬が廃人となってから半年間も見舞いに行っていた遊戯に、なんであんな奴を気に掛けるんだ、と聞いたことがあった。そのとき遊戯はとても悲しそうな声で、

「海馬くんが、遠くにいってしまうかもしれないのが、怖いんだ。僕も、彼も」

首にかけた千年パズルを触りながら、そう自分に言い聞かせるよう呟いた。
ペガサスに誘われ、あの王国に行ったとき、己の足で立つ海馬に出会い、それを見たもう一人の遊戯に、お前はあいつをどう思っているのかと聞けば、

「相棒は、優しいからな」

とだけ呟き、赤い目を思案するように伏せていた。

(過去に囚われてるってのか、俺は)

あの二人が、海馬を完全に許しているのかと言えば、恐らく違うんだろう。いくら優しい人間だとしても、あの仕打ちを許せる程二人が聖人君子じゃないのは分かっている。それでも、あいつと接するということに、二人は何も躊躇わない。

(俺は、あいつを認めたくないんだ)

遊戯の話を聞いている海馬は、もうあの時のような不気味さはなくて、どこか雰囲気も柔らかくなっている気もする。

(俺は、怖いんだ。海馬が変わっていくのが)

怖いんだ。あいつが笑う度に、なぜか痛むこの胸が。あいつを見る度に、もう一人の遊戯の赤い目がゆらゆらと思いに揺れているのに気づくのが。

(なにより、俺があいつのことを)

あいつに感じている感情を自覚するのが。

「城之内」

頭上から聞こえた声に驚き顔を上げれば、いつもと変わらない青色の目が俺の顔を見ていて、どくん、と心臓が高鳴った。

「なにを俯いている、貴様のチームの番だ。早くしろ」

そう言いながらコートの中へと入っていく海馬に、俺はハーっと大きく息を吐く。

「……やっぱり、そうなのかなぁ…」

あの青い目に見られた時、少なからず自分の思いを自覚してしまったことに頭を抱える。

(ああもう!なんで好きになっちまったかなあんな奴!)

もう自分を欺くことすら忘れ、心の中で大きくそう嘆いた。

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