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「きりんのみみ」みつ豆様より頂きました!「自分のマスターの話をするモンスターたち(闇海)」です!みつ豆様掲載許可ありがとうございます!

 

 

 

 

「瀬人様はとてもお優しい方ですわ。私たちカードのことも丁寧に扱ってくださって…」
「そんなこと言えるのはあなたがあのヒトの所業を知らないからだって!ですよねお師匠様!」
「青眼を破り捨てた男だと聞く」
「キュイ!」
美しい乙女と可愛らしい少女。闇を従える魔術師と光を宿す龍。
それはまさに異様な光景だった。

デッキに宿る魂。実体こそ持たないが確かに存在する彼ら彼女らは、カードの使われない夜にこっそり抜け出しては何処かに集まっているという。
今日は遊戯のエースモンスター・ブラックマジシャンとブラックマジシャンガールが、無人のーただし、海馬の持つ青き眼の乙女とブルーアイズホワイトドラゴンがいるーKC社長室を訪れていた。

話題は最初こそM&Wの戦術や自身の持つ特殊能力についてだったのだが、脱線に脱線を重ね、今ではマスターたちの性格に言及している。

「青眼が怒っていますわ。瀬人様と青眼は真に運命付けられた一対なんですって。会ったばかりの頃はその、ちょっぴりお茶目が過ぎただけみたいですわ」
「ちょっとちょっと!私たちがその頃を知らないからって適当なことを言っちゃだめよ!」
「そうだ。君たちの主のことは暗黒騎士ガイアから嫌というほど聞かされている」
清楚に微笑む乙女に反論する魔術師師弟。
「キュキュイ!」
「過去は踏みつけていくのが瀬人様と青眼のポリシーですから」
「そのポリシーはどうなんだ、何故青眼は誇らしげなんだ」
主好き好き!というのが目に見える青眼に、魔術師は白い目をする。弟子もこれ見よがしにため息をついてみせた。
「やっぱりいくら御曹司で社長でも性格悪いとダメですよねー。そこのところやっぱりうちのマスターが天下一品ですよ!何せ二人なんだから最強です!」
「数が多ければいいというものではないだろうが…その意見には賛成だ。我らのマスターはやさしさと強さを兼ね備えておられる」
今度は魔術師組が得意そうにマスターを自慢しだす。
それに不満げなのは青眼だ。
「キュキュ!キュイ!!」
「青眼が、瀬人様もお優しくてお強いと申しておりますわ」
青眼がえっへんと胸を張る。
「DEATH-T開催者がお優しい…?」
「うちのマスターに負け越しなのに、お強い…?」
猜疑心満点かつ辛らつな魔術師師弟の言葉に、カッと青眼の口が光った。
「キュイー!」
「わっ!バーストストリーム撃とうとしてますよコイツ!」
「ふふ、おやめなさい青眼」
「ちょっと、もっとマジメにとめてくださいよー!」
「…攻撃の無力化!」
「お師匠様、ここに魔法カードいませんから!!」

わーわーひとしきり騒いだ後、なんとか青眼を宥め、話はさらに続いていく。もとい脱線していく。

「それにしても、おたくのマスターって絶対うちのマスターのこと好きですよねー。DEATH-Tにしても、ぽんと100億かけちゃうあたり尋常じゃないっていうか」
魔術師の弟子が放り込んできた話題は少し、いやかなり反応しにくいものだった。しばし沈黙が続き、青眼と乙女からの無言の圧力を受けた魔術師が仕方なしに受け答えた。
「いや、それは復讐に対してかけた金で…憎しみだろう?」
「ふふーん。分ってないですねえお師匠様!愛と憎しみはカードの裏表って言うじゃないですか!」
「だがそれはあの男には当てはまるまい。憎しみは憎しみ、愛は愛でラベリングしてきっちり仕分けしているぞ多分。大体、弟に対する態度と比較したら一目瞭然ではないか」
「チッチッチ☆これはお師匠様には分らない、女のカンってやつなんです!理屈じゃないんですよ」
「お、女の…?」
師匠には分らない、理屈ではないと言われ、魔術師がギブアップを宣言する寸前。
やれやれといわんばかりに肩をすくめ、乙女が進み出た。
「それは違いますわ」
「お、乙女…!」
敵陣から投げられたまさかのタオルに魔術師が感動する。
「恋煩いはあなたたちのマスターのほうですわ!」
「乙女ー!!」
やはり敵陣は敵陣だった。
「考えてもごらんなさい。100億かけた殺害計画をあっさり許して更正させる…なかなか出来ることではありませんわ。しかもその後も何かと瀬人様を気にかけて、慈しみ支え光の道に導いてくださった…。これは絶対に恋ですわね。間違いありませんわ」
「うっ!なんだかすごーく的確なことを言われてる気がします…どうしましょうお師匠様!?」
「頼むから巻き込むな!私を!」
「キュキュ…」
「青眼もそうに違いないと申しておりますわ」
「キュ!?」
「それは絶対違うだろう!『心底驚きました』という顔をしているぞ!」

そんな楽しいお喋りもつかの間、いつの間にかしらじらと朝が来ていた。


「じゃあ、またね」
「ええ。またお会いしましょう」
「…またな」
「キュイ」
どことなく寂しげな空気を振り払うよう、魔術師師弟の魂は飛んでいった。乙女と青眼もまたカードへと戻っていく。
それぞれ、もう使われることのない自身へと。


海馬瀬人はもう決闘をしない。エジプトの地を踏んだあの日以来、カードを使うことはなくなった。あんなにも愛していたゲームをすることさえなくなった。青眼とデッキは大切に保存してあるが、それだけだ。近頃は触れられることもめっきり少なくなった。触れられるときも、懐かしむような愛おしむようなその眼に心臓がかきむしられる心地になる。

海馬瀬人は夜な夜な展示室に現れる。そしてそこに飾られた遊戯のカードを前に目を閉じて、祈りをささげている。いや、祈りではないのかもしれない。呪い、恨みつらみ、復讐心、もしくは愛。それは彼にしか分らない。ときには唇を噛み締め、強く強く祈っている。

その姿を見たくなくて、カードの魂達は抜け出すのだ。
あまりに痛々しくてうつくしいその光景がいやでも昔を思い起こさせるから。

空っぽのカードに祈る、もう少年ではない男。
もう命令を待つことはない哀しきしもべたち。


昔の話をしよう。華々しく愉しかった頃の話をしよう。
いつか彼らが再び出会う日まで。

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