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#フォロワーさんの好きな要素を詰め込んだ表海を書く タグで書いたものです

 

カチリ、カチリ、カチリ。
 部屋の中では、ただ静かに針の音が木霊する。
カチリ、カチリ、カチ。
 一瞬だけ止まる針の音。ゆっくりと視線をずらして見れば、壁に掛けられた時計は、深夜の2時を告げていた。

 遊戯が、帰って来ない。
 数年前に、エジプトに行くと言って日本を旅立った奴が帰国すると聞いたのがはや数週間前。それからずっと、俺は遊戯を待っている。
 甲斐甲斐しいことを、と遊戯が旅立ってからもスクスクと成長した弟からは言われたが、気になるものは仕方ないのだ。
 報せを受けてから、暫くの間していなかった完徹なんぞもしているが、遊戯は未だに俺の元へと帰って来ない。
もしや、向こうで女でも出来たのか、とまで疑い始めてしまい、自分が思っていたよりも女々しいことを知った。何たることだ、この歳にもなって。恋人に会えないのが、寂しいだなんぞ。
 「…くだらんっ」
これも全て寝不足のせいだと考え、さっさと寝台の上に寝転がり瞼を閉じる。
 遊戯の馬鹿、馬鹿者、薄情者。
 胸の内で子供のように悪態をつきながら、俺は徐々に意識を手放していった。

──あたたかい。
 未だに眠たい頭で最初に感じたのは、手に感じる体温の心地よさだった。
ふと時計に目を向けてみれば、既に朝の8時を回ったところのようだった。
なんだろうか、この温かさは。
 常ならば感じない、どこか懐かしい温もりに視線を動かせば、そこにはきらりと光る紫色の瞳があった。
 「おはよう、海馬くん」
 最後に聞いた時よりも、いくらか老けたその声と風貌に、俺は夢を見ているのだろうかと疑った。
 「あれ、寝惚けてるのかな…ごめんね起こしちゃって。お疲れ様」
 優しい声でそう言う目の前の男に、夢でも構わないな、と頭の奥底で感じた。
 「……遊戯」
 起き抜けに出した俺の声は掠れていて、とても小さなものだった。それでも、遊戯はにこりと微笑んだ。
 「ただいま、海馬くん」
 「……おかえり」
 「徹夜したの?目の下に隈があるし、肌もカサカサ。無理はダメだよ、もう若くないんだから」
 誰のせいだ、と思いながらも、握られた左手をそっと頬に滑らせる。
 昔よりも、硬くザラりとしていて、コイツも老けたなと感じる。今はもう夏に差し掛かっているから、遊戯は28歳になったのか。俺よりも、ひとつ上。
 「…遅かったな。浮気でもしていたのか」
 「ええ?酷いなあ。そんなことしてないよ」
 「どうだかな、こんなにも待たせておいて」
 眠たい目をなんとか開きながら、遊戯の頬を軽く抓る。あいて、と笑いながら言うお人好しに、俺はいつの間にか溜息をついていた。
 帰って来て、良かった。そう思いながら、抓っていた遊戯の頬を離し、奴の手に指を絡める。
 「暫くは、ここにいろ。夢だったら困るからな」
 「君が夢かどうかを疑うだなんて。なんだか不思議な感じ」
そう言って、遊戯は握った手に少し力を込めた。
 「大丈夫。僕は、ここにいるよ」

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