「散りそうになった妖海馬くんを助ける王様」というアイデアを頂いたので書いてみました
辺り一面が銀色に輝いているのに、瀬人の眠るその場所だけは、淡くも美しい色の花びらが散っていた。
桜の花に囲まれて眠る彼の人の、なんと美しいことか。
「海馬」
横たわる彼に近寄り、頬を撫でながら名を呼べば、閉ざされていた瞼がゆっくりと開かれた。
「遊戯、か。何の用だ」
瀬人の声は、こんなにも弱々しかっただろうか。瀬人の肌は、こんなにも冷たかっだろうか。
「…何を惚けた面をしている。これは止む無きことだと、お前も分かっていただろう」
俺がいつか好きだと言った瀬人の瞳は、既に光が遠のいているようだった。
そうだ、分かっていた。分かっている。分からなくては。
だからこそ、また海馬に会いに来たんだ。
「お前を、愛しに来たぜ」
ぴくりと揺れた長い睫毛に、優しく口づけを落とす。いつもならば小突いてくるあの白魚のような手も、今は地に伏せたまま動かない。
ああ、愛してる。愛してる。愛してる。
「海馬。俺は、お前を愛している」
返事を待たずに、白い首筋に強く吸いつく。白と淡い色しか無かった世界に、お世辞にも綺麗とは言えない赤黒い色が出来た。
「遊戯、」
「駄目なんだ、海馬」
何が、と震えた声で呟く海馬の口に自分の唇を重ねる。冷たくて、柔らかい。
ぬるりと舌を入れてみても、瀬人は抵抗しなかった。
「ん、…ふ」
いくら舌を絡めても、快感が伝わろうとも、瀬人の肌に温かさは戻らない。体が熱いのは、俺だけ。
「好き、好きだ海馬。…ずっと、ずっと愛してる」
それ以外の言葉が思いつかず、滑らかな肌を舌で辿りながら愛してると繰り返す。
愛してる。愛してる。愛してる。
「頼む……。傍に、いて欲しいんだ」
このまま、ずっと、二人で。
「…俺も、愛している」
ぽつりと海馬がそう囁いた途端、ゆらゆらと落ちて来た桜の花が、肌蹴た瀬人の胸に落ちた。
じわり、じわり。
今の今まで感じることのなかった熱を、触れていた掌に感じ始める。
はっとしながら海馬の顔を見れば、宙を見ていた青の瞳は俺を見詰め、白かった頬にはうっすらと赤味が増していた。
海馬が、まだここにいる。
「馬鹿者。…死にぞこなったではないか」
赤い顔をしてそういう瀬人に、だんだんと目頭が熱くなる。
いる。海馬が、俺の目の前に。
「っ……海馬…!」
「全く…全部貴様のせいだ」
じんわりと温かくなった海馬の唇にまた口付ける。
ちらちらと降っていた雪も、はらはらと落ちていた桜の花も、もう止んでいる