ぱちりと瞬きをすれば、目の前にはキラキラと電球を輝かせるメリーゴーランドが、ゆったりとした音楽を鳴らして回っていた。
――はて、いつから俺はここにいたのか。
それすらも思い出せずに、ただぼんやりと眼前で回りつづける豪奢な飾りを着けた馬や馬車を眺めた。
暫く見ていれば、ある一頭の白馬の上に、とても仲の良さそうな兄弟が乗っているのに気づいた。
兄の方であろう青いベストを着た少年が、一回り小さな弟らしき少年の手を握って、数ある馬の乗り物の中でも特に美しい青い目の白馬の上に乗り、くるくると回り続ける。
たった二人でも幸せそうに笑う彼らを見ていると、心の中にじわりと暖かいものが広がった。
どこか懐かしくも感じるこの兄弟の姿を目に映しながら、俺はまたひとつ瞬きをする。
現実離れしたこの光景は、いつから始まったのだろうと思案しながら、ゆっくりと目を閉じた。
それから俺が瞬きする度に目の前に映る風景は、いつも全く違っていた。
色とりどりに輝く遊具に乗った子供、夕暮れに照らされた教室で笑い合う男女、太陽に照らされた金砂の上で抱き合い笑う異人。
どれも現実味のない風景だったが、どの場所にいても皆、幸せそうに笑っていた。
風に巻き上げられた砂を視界に入れながら、またぱちりと瞬きをする。
きっと次で最後なのだろうと、俺は何故か理解していた。
目を開けたその場所は、今までの光景とは違い、色のない真っ白な場所だった。
まるで空白のように何もない場所に佇んでいれば、どこからか、周りを明るく照らす程に眩い光がふわふわと俺に近づいて来た。
「お前が、俺を呼んだのか」
そう光に問いかければ、人間が首を横に振るように、光が左右に揺れた。
「あれは全てお前の世界だ。お前は自分の世界を取り戻したんだ。もう、何も失いはしないぜ」
光の声が優しく俺にそう語りかけ、表情も見えぬのに、ふわりと笑った気がした。
「お前は、お前の人生を歩むんだ。過去に囚われない、お前だけの生き方で」
そう言って、目の前の光はゆっくりと俺から離れて行く。
「まて、行くな」
何故か、あの光を手放してはいけない気がした。
手を伸ばし掴もうとしても、それはただ先へと進んでいく。
「さよならだぜ。海馬」
光が自分の名を呼ぶ声が、酷く心地よくて、忘れたくなくて、俺は無我夢中で腕を伸ばす。
そうだ。あの光は、あいつは、
「 」
光の名を呼んだ瞬間、このおかしな世界は崩れさり、俺の体は宙を浮いた。
ふっと意識が戻れば、そこは見慣れた自分の寝室だった。
何か、とても奇妙で美しい、忘れたくない夢を見た気がする。なのに、俺は欠片も内容を思い出せない。
忘れてしまったそれは、俺の中にたったひとつの寂しさだけを残して、全て消えてしまった。
「俺の世界の中に、お前だけがいなかったではないか」
そう呟いた瞬間、俺は心の中にあった大切なものを、無くしてしまったのだと知った。