涙が石になる海馬くん
ちか、となにかが光った瞬間、それはころりと海馬の手のひらの上に転がっていた。童実野町の夜景を一望できる程の大きな窓の傍に置かれた、人一人座れる大きさのソファに深く座った海馬がふぅ、とひとつため息をつく。手の上に乗っていたそれを、正面のソファに座っていた俺の目の前にずいっと差し出してきた。
「貴様が見たいと言ったものだ。触るでも懐に収めるでも、好きにしろ」
海馬の意を汲んで、自分の片手をそれをつまんだ海馬の手の下に開くと、そのままぽとりと俺の手のひらに落としてきた。それを開いたのとは逆の手で取り窓の方へと向けると、それは外のビルや外灯の光に反射してピカピカと輝いた。
「これが、お前の涙なのか」
「奇特な人間だと笑うか?それとも、手品か何かと疑うか」
足を組み直しながらくつりと笑う海馬に、どちらとも違うと首を横に振る。
「すごく、綺麗だぜ。本当に、今までで一番綺麗だ」
そう息を巻きながら言えば、肘置きに腕をついていた海馬が、またくつりと笑った。
「今までとは、遊戯に取り憑いてからの話か?それとも」
「違うぜ。全ては分からないが、俺の魂に刻まれた記憶の中で、一番綺麗だと言ったんだ」
食い気味にそう俺が言えば、海馬はふん、と鼻で笑い、そのままソファから立ち上がった。
「…貴様の言い分は分かった、それは貴様にやる。売るでも飾るでもして愛でればいい。…今日はもう終いだ。迎えを寄越してやるから、さっさと帰れ」
どこか呆れているような、怒っているようにも聞こえる声色でそう告げれば、海馬はこの部屋から出て行こうと、扉の前へと歩き出した。
「海馬!」
俺が名前を呼べば、ゆっくりと振り返る海馬は、いつもと変わらぬ美しい青色をこちらに向けた。
「また、俺はここに来るぜ。絶対に」
海馬の青色と俺の緋色が空中で混ざり合って、お互いが心情を計れずにいるしんとしたこの部屋で、俺の手の平の中の紫色のアメジストがちか、と輝いた。