闇海の神々が「ソファーエロいい」と仰ってたので便乗した結果
革張りの黒いシックなソファーに腰掛けながら、カタカタとキーボードを指で叩く海馬の横顔をちらりと横目で見やる。真剣な顔付きでパソコンの画面を見つめる青い目は、普段は見慣れない白枠のシンプルな眼鏡を掛けていた。
「海馬。お前、それはどうしたんだ」
俺が自分の目の辺りを指でさし、眼鏡のことを聞いているのだと示せば、ああと理解したように呟き、手を止めてこちらを見た。
「PC用の物だ。仕事上、PCやらタブレットやら使うのでな。視力が低下しないようにと、モクバが最近寄越したのだ」
つまり、気の利くモクバが仕事熱心な海馬にプレゼントした、ということか。
この兄弟にはよくある話だが、なんだか少しムッとしてしまう。折角恋人が横にいるのに、他の奴からのプレゼントを使って仕事をしているとは…まあ、海馬なら仕方が無いことなのだが。
(やはり、どこか腑に落ちないぜ…)
「あの」モクバの存在に嫉妬しているらしい俺に、内心苦笑しながら海馬に視線を向ける。奴は既に俺から目を離し、またパソコンと向き合って仕事をしているようだった。
以前、海馬が仕事が終わればいくらでも構ってやる、と言ったことがあったが、あの時は有に6時間以上は待たされた記憶がある。やっとおあずけを解除された俺が朝まで海馬を付き合わせて、その日1日を睡眠に費やしたという珍事もあったが。
(さすがにまた6時間は御免だぜ)
ただいい子にしておすわりしているだなんて、残念だが俺には到底出来ない。目の前に獲物がある以上、迷わず喰らい尽くす獅子の方がお似合いだと自負しているし、あいつも分かっているだろう。だから、ここで海馬にちょっかいを出しても少しは許されるはずだ。
そう心の中で結論づければ、早速真横の好物で腹一杯にさせてもらおうと、名前を呼びこちらを向かせる。
「海馬」
「…何だ」
仕事の邪魔をされ、眉間に皺を寄せながらこちらに顔を向けた海馬に、少々罪悪感を覚えながら青い目を覆う眼鏡を外してテーブルに置く。
俺の急な行動に海馬は思わず目を丸くしていたが、すぐにまた仏頂面に戻ってしまった。
「なんの真似だ、遊戯」
「俺は、忠犬にはなれないってことだぜ。海馬」
「…はぁ…、まだ少し待て。これが片付けば、構ってやる」
「…今がいいぜ」
少しむくれてそう言えば、海馬がくすりと笑って、まるで子供だな、と愉快そうに呟いた。この機嫌ならば、後ひと押しと思い、さらに畳み掛ける。
「たまにしか長い時間会うことは出来ないんだ。仕事は後にして、今はコッチに集中しろよ、海馬」
そう言いながら海馬の薄い小ぶりな唇を親指の腹でなぞれば、その意味を悟りピクリと体を跳ねさせふと目を伏せる。
「……一度、だけだ」
やっと気持ちがこちらに向いたのか、海馬がゆっくりと俺に顔を近づけ、チュッと軽いキスをひとつ落とした。そのまま離れようとするその唇を逃すまいと口付ければ、海馬がうっすらと口を開き体を少し後ろに倒した。
小さく開いた口にすかさず舌を入れ上顎を擦ってやれば、びくりと体が動き右手を俺の肩に掴ませてきた。
「ん…っ」
「…っは」
お互いの舌を熱い口内でぬるぬると絡めあえば、気持ち良さそうに青い目が蕩けていくのが薄く開けた目の内から見えていた。口内で混ざり合い溢れ出した二人分の唾液を舌ごとジュッと吸い上げれば、鼻から抜けるように甘い声を漏らしながら、海馬が力をくたりと抜いた。
「、はっ、ん…!待て、遊戯っ」
「っん…?」
しばらく舌を這わせ唾液を交換し合っていれば、海馬が急に俺の左肩を掴んでいた手でそのままぐっと後ろに押し返し、繋がっていた俺の口と海馬の口が離される。口付けの名残でつーっと顔の間に引かれた糸を見て、海馬がかあっと頬を赤くしながら叫ぶ。
「ャ、ヤる、なら部屋に行ってからにしろ!こんなところで盛るな馬鹿者!」
そう言いながらこちらを睨む海馬の目は、ほんの少し潤んでいた。
突然行為止められた仕返しに、少し悪い顔をしながら目の前のいじらしい海馬に言う。
「…こんなところでなければいいんだな?」
にやりとしながら意地悪く言えば、海馬は一瞬固まり、その直後に一気に首まで赤くして「なっ…っっ」と声にならない声を上げてソファーに倒れ顔を両腕で隠してしまった。
「馬鹿っ…馬鹿者が…!」
どうやら本気で照れてしまったようで、海馬は先程から同じ言葉しか繰り返さない。
両腕の隙間からちらっと見える耳が真っ赤になっているのが分かって、海馬の余りにかわいらしい一連の動作にニヤケが収まらない。
「向こうに行って深く楽しむのもいいが、こういう場所でヤるのも悪くないだろう?」
そう言って海馬の赤い耳を食み左手で服の上から脇腹をさすれば、ビクビクと体が跳ね上がる。
完全にソチラのスイッチが入ってしまっているのだろう。どうせならここで少し悪戯してから楽しませてもらおうと思い、顔を隠す腕を外してくれと2、3回軽く頭を撫でれば、ゆっくりと海馬がその下の赤い顔を見せた。
「…こ、ここで…最後までは、無しだからな…!」
そう言いながらこちらを涙目で睨む海馬を見て、ずくんと下半身に熱が溜まった。
「悪いが…約束は出来ないぜ…」
興奮で息が上がり切羽詰まった声でそう言えば、海馬が気恥ずかしそうに眉を寄せ口をぐっと口を噤んだ。
その表情にぞくぞくと加虐心がそそられ、いつも好んで着ているぴたりと肌に張り付いたタートルネックの下で、うっすらと主張しているのが見えた胸の飾りをぐりっと指で押し潰してやった。
「ひっ、あ!」
いきなりの直接な刺激に耐えられず大きく喘ぐ海馬に気をよくしながら、さらに固く育ったそれを服の上からクニクニと弄ってやる。
「あっ、んあっあ…」
とぎれとぎれに喘ぐ海馬の顔は既に快楽でぐちゃぐちゃになっていた。
数分前まで色欲など一切見せなかった海馬が、肌を一切見せずに喘ぎ、羞恥と快楽に染まりきった青い瞳を涙ぐませて口からとろりと唾液を溢れさせている様は、いつ見ても堪らない。
二人分の重さでギシリと軋むソファーの上で、海馬が落ちないようにと脇に手をつき、もう片方の手を胸から下げていき太腿の内を撫で上げれば、あ、とまた小さく喘いだ。
「ゆう、ぎ…」
期待と不安に揺れる青い目を見つめながら、俺はゆっくりと、海馬の体へと溺れていった。